利用者さんは寂しがり屋さん
今朝目が覚めたら8時15分だった。
毎日家を出るのは8時20分。
もう相当焦ってしまった。
だって間に合うわけない状況だもん。
化粧や着替えもそこそこに会社に行って、なんとか間に合った。
髪とかボサボサでやる気ない感じのまま仕事に入った。
それにしても、自分の眠り具合にはホント驚かされるわぁ。
三十路前の社会人が寝坊で遅刻なんてありえないもん。けど間に合ってよかったぁ〜。
頭がボーっとしてたので、夜勤さんからの送りやおばさんヘルパーから言われることがちっとも頭に入らない。
そのうえ今日は主ヘルがお休み。
私がなんだかんだしなきゃいけないんだけど、頭がちっともついてかなかった。
なんとか頭を働かせ朝礼の記録をしていると、キコさんが事務所へやって来た。
そうだった、私がサービスに行かなきゃいけないのに、時間が過ぎていた。
「もうこんな時間でしたね、すみません」そう言ってキコさんとお部屋に向かう。
「いやいいですよ。ただ時間過ぎても誰も来られなくて心配になって…」キコさんはしっかりしたとても優しい方。
最近は体調が思わしくなく、サービスに入ることがたまにある。
「今日は何からさせていただきましょうか?」
「あのね、買い物お願いしたいの。ここに書いてるんだけど…。重たいものでごめんなさいね」
買い物のメモとお金がきちんと用意してあった。
さすがキコさん。
確認して買い物へ行ってくると「早かったですねー。すみませんね、自分で行けばいいのにお願いして。こないだ先生に、外出は控えなさいって言われたの。
出掛けるのが楽しみなのに控えなさいって言われてもね〜。
毎日暇で困るわ、寝てばっかり」と苦笑い。
キコさんは毎日バスに乗って散歩に出掛けられるのが日課だった。
雨の日も雪の日も続けておられたらしい。
それを止められてるんだから辛いことだと思う。
もちろん体調が悪いこともあって、向日葵のような素敵な笑顔のキコさんは、最近元気がない。
「早く出れるよーになるといいですね。日課の散歩があるもんね」
「そうなの。でも次のけんさは月末だって。早くしてくれたらいいのに」とつまらなそうに話された。
残りの時間は掃除をして終了。
部屋を出ようとすると「コレどうぞ。私が好きだから買ってあったの。また食べてください」とチョコレートをくださった。
お礼を言うと、ちょっと元気のない向日葵の笑顔で見送ってくれた。
やっぱキコさんは素敵。
早く散歩に出れるよーに元気になってほしい。
ボサボサ髪と回転の遅い頭でなんとか仕事をこなしていたけど、こんな日に限ってなにか起こる。
ロンさんの熱が高いと報告があった。
毎日のこの蒸し暑さのせいで、軽い脱水の症状だと思った。
検温や水分補給にまわるのは私しかいない。
お茶や冷えピタを持って何度かお部屋に行った。
「大丈夫?しんどくない?」
「大丈夫だ。熱なんかなんともない」そんな強がりを言いながらも、しんどい様子でベッドに横になっておられた。
お昼もほしくないとのことで、お粥を用意してもらい熱冷ましの薬と一緒に運んだ。
だけどほとんど食べられず薬を飲んで休まれた。
そんなバタバタで私の休憩時間はドサっと持ってかれてしまった。
ゆっくり休みたいところだったけど、こんな場合は仕方ない。
みなさんの健康が一番だから、それ以外はどうとでもなる。
休憩ほしーなんて言ってらんない。
おばさんヘルパーにお願いすることもできたけど「私したことない」とか言われるの目に見えててめんどーだし、何より私が自分でロンさんのお世話をさせていただきたかった。
昼すぎロンさんの熱は下がった。
熱さましのおかげだからまだ油断はできない。
私が何度もロンさんの額に手を当てるので「オマエは大げさだなぁ」と言いながら、ロンさんはとても嬉しそうだった。
そういえば昨日「オマエを嫁さんにもらったら幸せだな」と言っておられたっけ。
今日の新婚さんみたいなやりとりが嬉しかったのかな。
私に看病されて幸せそうなロンさんを見て、私もなんか幸せな気持ちだった。
このまま熱が上がらず、明日は元気になってくれるといいなぁ。