介護の方程式
またバスが大幅に遅れ、遅刻ギリギリ。
予想どおり、ハリノムシロ状態…。
私の気持ちがそうなってるからってのもあるけどおばちゃん主任のお怒りは、冷たい「おはようございます」で読み取れた。
コワイよぉ〜。
昨日休んだことと申し送りが伝わってなかったことを謝って、私はどんよりと仕事にかかった。
あるおばさんヘルパーは私が落ち込んでいるのが面白いらしく、必要以上に優しくテンション高く話し掛けてくる。
もう、ウザイんだよっ。(言えないけど)
こんな気持ちをリセットしてくれるのは、やっぱり利用者さんだった。
ミイさんからのトイレコールに行くと「アンタは可愛くて好き」…涙が出そう。
こんなん言われたら、もう一気に元気になっちゃうよー。
今日もがんばるぞってエネルギーが満タンになった。
今日は新しく来た主任ヘルパーに初めて会った。
ズングリムックリの頭もしゃもしゃの…デキなそーな男の人。(失礼だけど正直な感想)
前評判はかなり悪かったけど、私はなんか嫌な気はしなかった。
男を意識せずに話せるから仕事しやすいってのもあるし、なんかイイ人そうだし。
頼りにはならなそうだけど、私にとっては直属の上司。
仲良くやっていきたい。
イイ雰囲気でやっていけそうな気がして、張り詰めていた気持ちがちょっと楽になった。
フリーの時間に新しい主任と打ち合せをするんだけど、なかなか話が伝わらない。
やっぱちょっと変わった雰囲気の人は、とらえ方も変わっている。(偏見?ゴメンナサイ)
なかなか伝わらず「いや、そうじゃなくて…こうゆう意味なんですよぉ」とイチイチ説明しながら、伝わったんだか伝わらないんだかとりあえず話が終わる。
そんなやりとりだった。
でも主ヘル(主任ヘルパー)は期待に応えようと懸命なんだってわかる場面がいくつもあった。
私ではなかなかおこせないアクションをおこしてくれた。
私が言えば角が立つことも、主ヘルでしかも男性の彼が行えばみんな「わかりました」となる。
私が書類整理に追われていると「これからは僕の仕事だから、教えてくれる?」と助けてくれた。
しかも仕事が早い。
これはかなり頼もしい。
おばちゃんの仕事ばっか見てたせいか、主ヘルは「おおっ」ってぐらい動いておられた。
スゴイ。
職場にも新しい風が入って、いつもよりなんかイイ雰囲気かも。
先はまだわからないけど、主ヘルについてがんばっていくしかない。がんばれそーな気持ちになってきた。
午後の入浴。
今日はおばさんヘルパーがたくさんおられた。
それぞれが仲が悪くバチバチの雰囲気なのに、表面上は和気あいあい。
腹の探り合い。
恐ろしいよぉ。
私は変わらず書類整理をしていたんだけど、その恐ろしさを見るに見兼ねて入浴介助にまわった。
若手が一人加わると雰囲気変わるし。
それともうひとつ理由があった。
たまたまシズさんのお部屋に行ったとき「今日はお風呂ですね」と言うと「なんかダルくて、いま熱計ってみちょーとこ。熱があればやめるけど、頭が痒いにぃ。シャンプーはしたいけどぉ」体温計は平熱だった。ただ甘えておられるような感じ。
「熱はないよぉ。サッパリするけん入りましょーよ。もう少ししたら呼びに来られるけん」と話すと「…なんでね。アンタが来てごすんじゃないかね?」とムクれてしまわれた。
「わかった。私迎えに来るけん、頭洗いましょー。気持ちいいよ」
「そんなら行くわ」こんなん言われたら嬉しくて、すべて後回しになってしまう。
自分を必要としてもらえるのって、仕事とはいえすごくすごく有り難くて幸せなことだもん。
そんなわけで、書類は後回しでシズさんとお風呂に入った。
毎日の仕事を、このシズさんとのやりとりのよーにすすめられたら、スタッフも利用者さんもすっごく気持ちがいい。
だけど相性や時間の関係で、なかなかそうはいかない。
ピタっとうまくできるほうが難しい。
だけど、こんなささやかなやりとりを大切にしていきたいな。
介護の仕事は方程式に似てるような気がする。
なかなか解けない方程式なんだけど、毎日関わって性格や生活歴や好き嫌いを知っていくと、少しずつ糸がほどけるみたいにイイ関係をつくっていける。
もちろん、採点するのは利用者さんだから、百点はなかなか取れないだろーけど。
だからやりがいがあるんだな。