働き介護蜂
ミイさんが入所されて三日目。
私の朝礼と休憩の時間は彼女に乗っ取られてしまった…。
朝礼に参加しているとコールが鳴りトイレへ。
おばさんたちは腰が重いから行くのは私。
顔を覚えてくれたからか、私には依存度が高い。
お気に入りの男性スタッフにもそうらしい。
ミイさんはスタッフをよく見ていて、甘えられるスタッフが行くと身体が動かない。
だけどゆっくりでも動かしてもらうよう声をかけたり誘導したり。
だからトイレの介助に時間がかかり汗もかく。
汗だくヘトヘトで事務所へ帰れば朝礼は終わっている…はぁっ。
昼だって、やっとやっとありついた牛丼をかっこんで、ホッとした瞬間にコールが鳴る。
泣きそう…こうなるともう覚悟を決めるしかない。
今日は働き蜂かぁ。
そんなんで休憩もそこそこに、また仕事にかかることになる。
私は厳しくないスタッフだと思う。
そうなると自分の身体が二つ三つ欲しいぐらい忙しいけど、それでいいと思ってる。(もちろん甘いだけじゃないつもり)
スタッフのタイプや反応が一緒だったら、利用者さんはロボットに介護されてるよーなもんだと思うから、厳しい人と甘えられる人がいていいんじゃないかなぁ。
スタッフは肝心なところだけビシっ統一して、あとは個々が相手を見てやり方を見つけていくのがいいような気がする。
自分と違うやり方を見て勉強できるし、幅が広がる。
知らないうちに向上する気持ちが生まれてくるなんてすごくイイ。
介護なんて人間と人間のつながりだから、同じになるほうが不思議だもん。
おばさんたちは「これを徹底せないけんわ」
「あの人のやり方はいけん、ちゃんと言わんと」とすぐに逆上せるからイタイんだよなぁ。
自分の物差しでしか判断ができない。
共感なんてものは、仲間にも利用者にも持てないんだと思う。
私みたいなやり方は「いい加減」と思われるだろーけど、みんな右習えの北朝鮮みたいな職場で働きたいヤツなんているんだろーか?
そこに住みたいお年寄りがいるの?
そんな介護の現場は刑務所みたいなもんだ、と思うけどなぁ。
今日の昼ぐらいからハラさんの様子がおかしかった。
ひきこもり気味のハラさんだから、いつものように食事の声かけに行ったがなかなか来られなかった。
やっと食堂に来ても、首や肩が凝っているから揉めと言う。
はじめは半日勤務のおばさんヘルパーがしていたけど、終業時間になり私が交替した。(そのためになかなか昼食にありつけなかった)
「そんなに凝りがヒドイのに揉んだらよくないかもしれんよ?病院行かれませんか?」
「いんや、いいけん揉め!」ただの肩凝りなのかなぁ?
正直私は休憩したくてウズウズしているのに、ハラさんはごはんも食べず「ワシはねぇ、身体がおかしいわね。アンタは健康だけんわからんだろーけど、もっと真剣に考えてよ。首揉んでよ。ワシごはん食べるけど、ずっと揉んじょってよ!」
私の心此処に在らずが伝わったのかかなり命令的な言い方。
ムカつくけど、私の対応も悪い。
だけど、私は奴隷なのぉ?って気分になった。
長年のひきこもりで人とのコミュニケーションがうまくできないだろうから、言い方とかは仕方ないことと思う。
だけど私も空腹限界のとき、なかなか優しくはできなかった。
腹は鳴るわ休憩時間は減るわで最悪。
だけど落ち着いてみると、ハラさんはいまこうしてもらいたいんだよなぁ、私の空腹や休憩時間なんか関係ないもんなぁ。
覚悟を決めて揉みはじめた。
そうすると「5分だけごはん食べるけんいいわ」拍子抜け。
「わかりました」
とやっと休憩に入った。
結局ハラさんはマッサージを頼み、身体を揉み解してもらっていた。
でも夕方になってもよくならないとのことで病院に行くことになったらしい。
本人も観念したみたい。
人嫌いのハラさんが「揉め揉め」言うなんて相当しんどかったんだろーな。
なんが心ない対応をしてしまったなぁ。
めちゃめちゃ反省した…こんなんじゃダメだよなぁ。
ハラさんごめんなさい。
ハラさんの身体がなんともなく無事でありますよーに。