女優と介護
今日は午前中だけの半日勤務。
こんな日はあまりないので、チャッチャと仕事をして帰ろーっと。
朝カズさんに買い物をお願いされていた。
今日はカズさんのお部屋掃除が入っているので、そのときに行きますねと話しておいた。
カズさんは仲居さんをしておられたとゆうチャキチャキのおばあさん。
ホームでも仕切り屋で勢いのあるの目立った存在。
おとなしいおばあさん達はカズさんと関わりたくないみたいなんだけど、接してみると優しくて可愛いおばあさんってことがよくわかる。
たまにワガママを言われたりもするけど、テキパキと何でもできる方だからたまには誰かに優しくしてもらいたんだと思う。
甘えたいのがすごくよくわかるから、なおさら可愛らしい。
そりゃあ甘えたいときもあるさ〜と見ていてよく感じる。
カズさんに必要なモノを聞きお金を預かり、近くのスーパーへ走った。
「カズさぁん、買ってきましたよ。今日は安くなってたよ」
「あら、なんぼだったかね?」希望の品が安かったことが嬉しかった様子で、一緒にレシートを見ながらお釣りの確認をしてもらった。
「掃除はなにかありませんか?ゴミは?」と聞くと「昨日も掃除してもらったけんキレイだわね。今日はいい。アンタお茶飲まんかね?」
時間がなかったので「また来させてもらいます」と答えると、菓子鉢からお菓子を何個かつかみ「ほんならコレ!」と無愛想に握らせてくれた。
人に優しくしてくれるとき、カズさんは照れ臭いのかぶっきらぼうな言い方をされる。
それがなんとも可愛らしい。
お礼を言うと「こっちこそありがと。お世話になったね」と恥ずかしそうに目をそらして言ってくれた。
昼になると「アンタ時間だけんもう上がるだわ」とおばさんヘルパーに声をかけてもらい、記録をして帰った。
家でゆっくりしていたけど、夕方はおばさんヘルパーから電話がかかってきた。
しかも二人から。
何かしでかしてしまったのかとビクビクして出ると、なんてことはない勤務交替のお願いと、愚痴。
今日の午後は相性の悪いおばさん二人が一緒だった。
私がいなかったのでそのときの話を聞いてほしかったらしい。
おばさんヘルパーは何人もいるけど、みんながそれぞれ仲が悪い。
私はいまのところそれぞれのおばさんに、それなりに大事にされている。
でもそれはそれでかなり辛い。
おばさんって側近みたいな手下みたいな存在を欲しがる生き物だと思う。
味方を作りたくてしょうがないらしい。
だからそれぞれによくしてもらっても、その人たちが仲悪いと私はそこで困惑してしまう。
どっちの味方でもないし、私は側近になんてなりたくないもん。
仕事しやすいおばさんは頼りにしてるけど、人間関係を深めたいとは思わない。
どっちかとゆうと程よいところで一人淡々と仕事をしてるのが好き。
でもこれが一番難しいんだよなぁ。おばさんの愚痴を聞いてしまうと必然的に味方になってしまって、それはもう一方の敵になってしまうことだから、考えるだけで恐ろしいよぉ。
でもおばさんが愚痴を言ったあと「やっぱアンタと仕事するのがやりやすくていいわ。声聞いて元気が出たわ」な〜んて言われれば悪い気はしない。
それもおばさん特有の作戦なのかもしれないけど、それを見抜くほど大人じゃないしなぁ。
介護の仕事をしていて、認知症の方と関わってるときに上司に言われたことがある。
「女優になってその人の求める相手になってあげればいい」とか「嘘も方便。嘘はよくないけどその嘘で安心されるなら、それは嘘じゃないんじゃないかな」とか「相手は嘘とわかってても、自分の世界に一緒にいてくれるその気持ちを感じて安心される」とか。
その時によりけりだけど女優にならなきゃいけないときはたくさんある。
利用者さんと接していて少しずつわかってきた。
だって「ごはん食べてない」と言う認知症の方に「さっき食べたでしょ!」と言ったところで何も解決しない。
食べてないと思い込んでいるなら否定せずに、気持ちを違う方向にむけるような声掛けをするほうがうまくいく。
「息子が来ない」と言われれば「もう少ししてから来るってさっき連絡があったよ」と安心してもらえるような返事をする。
そんなぐあいに嘘をうまく使って、相手の世界を壊さない声掛けが必要と思う。
だけどこれってもしかして、おばさんたちに対しても必要な術なのかも。
そうしなきゃうまくやっていけないのかもしれない。
おばさん達のスゴイ世界を見ると、本当の自分でいたら危険だなぁとよく思う。
だからイイコちゃんしてるんだけど。
みんな声を揃えて言うけど、女の職場は本当に恐ろしい。
そこでうまくやっていくには『女優魂』かなぁ。
だけどどこにいても素でいれないのは、けっこうしんどい。
介護はタフじゃなきゃできないっての、こうゆうことかぁ?