介護ってなんだろう?
私のおばあが新しくできた老人ホームに先週引っ越した。
今日は仕事が休みなのでおばあの様子を見に行ってきた。
それまではつなぎの施設だったので、この新しい施設が『終(つい)の住みか』になるのかもしれない。
木のにおいのする素敵な建物だったけど、ひと気がないとゆうか生活感が全くなかった。
「ここは全部屋個室なんですよ。お風呂も見られますか?機械でも入れるんですよ」と事務所のおエライさんの自慢話チックな説明を聞きながら部屋へ向かった。
昔働いていた老人病院を思わせる、だだっ広い浴室に機械が並んでいた。
ここで流れ作業のように入浴させられてるのかなぁと心配になった。
確かに設備は素晴らしかった。
最新式の入浴機械。新しい施設のウリはだいたいそんなもんだ。
ハード面だけが充実している。
家族はむしろソフト面を充実させてほしいんだけど…まぁこのオッサンたちにはわかんないだろーなぁ。
ここは何人かのユニットでわけられているらしく、『紅』とゆう大きな部屋の中にまた幾つかの部屋があり、そこの一室におばあがいた。
私の顔を見るなり「あらぁ、来てごいたかねぇ〜。ここがよお(よく)わかったねぇ。こんなとこに来させら
れた。何にもなくて毎日寝ちょる。バカになってしまぁわ。人もあんまおらん。三人だけ。ごはんも味が薄くてまんない(美味しくない)に看護婦さん(スタッフさん)が食べれ食べれってついちょって言いなる。そげん食べれんに…」不満が爆発したらしい。
おばあは田舎で農業をしていた働き者。
いまはベッドから天井を眺めてマズイ食事に呼ばれるだけの毎日。楽しいワケがない。
確かにこのスタッフじゃあたいしたことはできんだろーな。
私がおばあの部屋にいた2時間、スタッフ三人はケタケタと笑いながらソファに座っていた。
何もしていなかった。
こいつらサイテーだな。介護の仕事なんてやめちまえよ、と本気で思った。
「爪が伸びたわぁ」とおばあが可愛く言う。
爪切りをしてもらうのが嬉しいらしく、以前から爪が短くても私の顔を見るたび言う言葉。
爪切りをしたり缶コーヒーを半分ずつ飲んだりトイレの介助をしたり、おばあといる間充実した時間を過ごした。
夕方になると、スタッフはあと二人のおばあさんをホールに連れ出していた。
テレビの前で車椅子に座らせ、ほとんど声もかけず『スケジュールどおりの仕事』をしてるだけ。
私はおばあをホールに連れて行き、ひとりのおばあさんに「こんにちわぁ」と挨拶した。
優しい笑顔で会釈してくださった。
身体を曲げれないのかリクライニングの車椅子に座り、上半身だけ起こしておられた。
上品な雰囲気の素敵なおばあさん。
職業病とゆうか、私は話し掛けたくてウズウズしてしまった。
お年寄りを見れば声を掛けたくなるし、その方を知りたいなぁとかおせっかいをしてしまいそうになる。
なのにここのスタッフときたら、本当に興味がないらしい。ほったらかし。
となりの福祉専門学校の卒業生なんだろーけど、知識ばかりで何もできていない。
他の施設に研修でも行ってみたらいいだろーに、そんなことにすら気付いてないんだろーなぁ。
学校は何を教えてんだろう。
あんまりなことを言えばおばあに皺寄せがいくので何も言わずに帰った。
おばあは私が見えなくなるまで手を振っていた。
おばあの身元引受人は私の伯父なので、意見しても聞いてもらえない。
言ったところで機嫌が悪くなるだけ。私にはたびたび顔を出しておばあを喜ばせてあげることしかできない。
悔しいなぁ。
帰りぎわ事務所へ寄り「パンフレットいただけませんか?」と聞くが「パンフレット…?どこにあるかなぁ。
私はわからんでねぇ」と今夜の当直らしいおじさんのいい加減な返事。
もう呆れ果てて言葉もない。まだオープンしたばかりで空室も多いんだから、パンフレットを渡すのは宣伝にもなるだろう。なのにどこにあるか知らないなんて。
何から何まで腹立たしかった。
文句を言ったっておばあを引き取ることができないんだから、イチャモンつけてるだけみたいに思われるかもしれない。
でも介護の仕事にはやっぱり心が必要だと思うから「こんなもんかぁ」って納得するわけにはいかない。入居者の家族はいつも一緒に居れないから、たまに会ったときの想いが強いのかもしれない。
でもだからこそ、見えることがあると思う。
私はスタッフの立場でもあるから、仕事をしながら入居者だけじゃなく家族の視線や気持ちも常に意識するようにしている。
家族とスタッフとがいい連携をつくることができるれば、自然と利用者にいいケアができるようになっていく。
介護はチームプレーだと思う。これからは休みの日にはおばあのヘルパーに行かなきゃなぁと思った。