夫婦愛ってステキだなぁ
たまたまマスオさんのお部屋を尋ねると、クリクリの目で満面の笑みで「コレ、コレ…」と指先を見せられた。
「爪切り?」と聞くと「おお、おお、そうだ。(爪切りが)なくてなぁ〜」
「ちょっと待ってて。いま持ってきますね」と部屋を出ると「早ことなー」とマスオさんが叫んでいた。
マスオさんは奥さんと二人で入居されているけど、いま奥さんが入院中。
たぶん爪切りの場所がわからなくて、ずっと切れなかったんだと思う。
ハサミで切ろうとしてうまくいかず、私に爪切りを貸してほしかったらしい。
急いで爪切りを持って行くと、テーブルの上にコーヒーフレッシュがひとつ。
片付け忘れかと思い「コレ片付けましょーか?」と聞いてみると「待て、これはな、お前にな、コーヒーをなぁ。そこそこ…」指差す方を見るとポットの横にコーヒーカップとスプーン。
マスオさんは私が爪切りを取りに走っている間に、私のためにコーヒーが飲めるようセットしてくれていたらしい。
感激した。
「私が飲んでいいのー?マスオさんは?」
「ワシはな、今日はもう飲んだ。お前、コーヒーたくさん煎れて飲め」マスオさんはいつも奥さんと二人、コーヒーを飲んでおられた。
最近は一人で飲んでおられるらしい。
私は自分のコーヒーを煎れ、冷めるまで間にマスオさんの爪を切らせてもらった。
切り終わると「ちょっと貸せ。お前は飲め」とヤスリで爪を整えられる。
私はその横でコーヒーをいただいた。
インスタントコーヒーの優しい味。
小さい頃おばあちゃんちでよく飲ませてもらったこと思い出すなぁ。
ホッとしていると、マスオさんは枕元のお菓子箱からクッキーを出して「コレも食べぇ」とくれた。
ホントに優しくて素敵なおじいちゃん。
こないだまで毎日二人だったこの部屋で、最近は一人こうやっておられたんだなぁと思うと、笑顔を見ていて切なくなった。
「いっつも二人でコーヒー飲んどられたがぁ。おばあちゃん(奥さん)早く帰ってきてくれるといいですねー」「おおっ、もうすぐだ」
「やっぱり寂しいですかぁ?」
「寂しくないわいっ。けどなぁ…」と一息ついて「会いたいな」と私の目を見てぽつんと言われた。
その表情とことばに胸が締め付けられるような気持ちになった。
何十年も当たり前に隣にいた奥さんがいないことは、ホントはすごくしんどいんじゃないかなぁ。
だけどこうやって笑顔でおられるんだよなぁ。その後ピンと閃いた顔で「お前、病院連れて行ってごさんか?ばあさんに会いに行きたい。顔が見たい」マスオさんは普段はほとんど外出されない方。
それどころか食事入浴トイレ以外はだいたいベッドで休んでおられる。
「寝るが一番」いつもそう言って横になってるマスオさんが外に出ようとされるなんて、ホントにホントに奥さんに会いたいんだな。
あとたぶん、一人病院にいる奥さんのことが心配でたまらないんだなぁ。
奥さんはそろそろ退院の予定だけど、マスオさんを奥さんのところに連れてってあげたい。
マスオさんの愛の力はスゴイ。
夫婦愛って素敵だなぁ。